観光客側から見た観光の変容を整理

上田ブラ研では「観光」を切り口にいろいろ考えています。そもそも地域にとって「観光」など必要ないのでは? という意見もありますが、上田ブラ研はそう考えていません。必要ないという意見は観光による直接的な恩恵(利益)を受けていなかったり、交通渋滞や鉄道の混雑などを引き起こす、負の要素に巻き込まれた場合に発生していると考えられます。

多くの地域で住民視点からは観光による負の要素は目立ち、マスコミもそこにスポットをあてるので余計にそのように見えます。話を進める前に「観光客」を定義しておきます。上田ブラ研内の学生が作る研究団体[ΓΕΝ(ゲン)]では「観光」について定義しています。これに加え、上田ブラ研では「住民税」をその地域行政に対して払っていない人を「観光客」としておきます。つまり住民票がその地域の市役所にない人と同義です。これで観光と観光客について概ね切り分けができたと思います。

「観光」が必要ないとした場合、その意見を持つ人自身が他地域へ出かけることは矛盾してしまいます。つまり住民票を置いている地域から一切出ないで生活を送ることを意味しています。果たしてそのようなことが可能でしょうか? 現実的には不可能です。上田市地域においても、ちょっと買い物に佐久方面や長野方面へと出かけることも少なくないでしょう。時には海を見に日本海までドライブしたり、東京方面へ遊びに行くことも考えられます。この時出向いた先の地域に住民票を置く人から見れば、やってくる人は誰しも「観光客」です。

あとは簡単な話なのですが、住民票がなく住民税を払っていない人がやってきた時、どうやって「気持ちよくお金を払ってもらえるか?」を考えるのが「観光行政」の役割です。(地域)外貨を稼ぐという表現を使いますが、最たるものは国外貨ですから、国外インバウンドに注目が集まるのは自然なことです。

こうした面から多かれ少なかれ観光から得られる外貨を徴収する仕組みを作っておくことは、住民税を納めない人がやってきた場合に何らかのコストを支払ってもらう対応ができることに加え、町の問題が顕在化しやすいために、見た目やインフラなどの機能が整うという効果があがることも十分考えられます。

そして今までは徴収窓口が主に「宿泊」や「移動(交通)」に携わる業種が殆どだったので、それ以外の業種に携わる人たちには恩恵が感じられなかったと思います。また観光行政側も、お金を気持ちよく払ってもらえる人への直接対応を観光業種に依存しており、逆にお金を払ってもらえる人を地域に呼び込む大きな活動は、観光業種の方たちが観光行政に依存していたことで、観光客側の変容に対応しにくいモデルが構築されていました。

コロナ禍で徴収窓口が一気に変わる可能性

2020年のコロナ禍少し前から、車中泊やプチキャンプなど「宿泊施設に泊まらない」タイプの観光が増えてきました。オーバーツーリズムで宿の予約ができないなどの理由も加味され、国内で少しずつ増えてきたスタイルでしたが、コロナ禍の影響で一気にこのスタイルが定着した印象を受けます。

このスタイルでは従来のような宿泊・交通業種が徴収窓口になることは叶いません。また場合によっては道の駅などの水道料金や下水処理、ゴミ処理代を地域が負担することとなる場合も考えられます。

今まで徴収を担っていた業種の他にも別の業種に何らかの方法でアプローチをかけてもらえるように仕組みを整える時期が一気にやって来ました。「道の駅」と「直売所」というダイレクトに車中泊ゾーンへアプローチをとっている地域もありますし、現地ガイドツアーを組み合わせた体験型物販のアプローチをとっている地域も見受けられます。どちらも従来の観光行政だけでは対応しにくい部分で、販売計画やマーケティングなども必要なことから、ノウハウを持った団体を中間に据えて、プロモーション広報活動とは別に動ける仕組みを整えている地域も見受けられます。

価値が反転する観光客

現状の観光地は「価値を提供する」ことでお金を払ってもらう仕組みが組み立てられています。例えば宿泊業界では趣があったり、豪華な設えの室内であったり、入浴施設であったり、食事であったり。エンターテイメント側ではアクティビティの種類やショッピングの場所であったり。最たるものは「城泊」と呼ばれる復元城の中に宿泊部屋を設けるもの。

しかし「誰が価値を作るのか」という視点で見た場合、明らかに2020年現在では「観光客側」が「勝手に価値を作っている」状態になっています。その一例は「ぬいぐるみ(Doll)と旅をする」Instagramに現れています。

今まで地域資源と言われていた建造物やランドマークなどは名実ともに「背景」になっており、旅行者は「シェア」や「いいね!」の数に大きな価値を見い出しています。ぬいぐるみ(Doll)と旅をする例は飛び抜けて目立つ事例となりますが、観光地においてスマートフォンでスナップを撮り、それをSNSにアップするだけという例になればかなりの数でしょう。もはや目的は「スマートフォンで撮影すること」になっているため、そこにあるものは偽物でも構わず「シェアされれば何でも良い」ナルシズム観光になっていることが現実です。一例としてゆるきゃら「くまモン」は存在そのものが偽物ですし、熊本県にクマは生息していませんが、地域資源のようになってしまっている例のひとつです。

このように「価値を観光地側が決めて提供していた」時代から「観光客が価値を決める」反転の時代になりました。

価値の多様性に対応する

上田市地域においても「真田家」を中心とした価値創出と六文銭や赤揃えを共通項とした観光産業政策が中心となって行われています。しかし残念ながらこの政策のままでは価値の多様性に追従できません。その理由は先に記述したとおり。

シェアのための撮影だけして移動。その移動もクルマを使った場合、燃費の向上で観光に来た地域で給油しなくとも往復できてしまう。またコロナ禍の影響により近距離の移動が増加しているため、余計にガソリンスタンドでの徴収には期待ができず、宿泊も期待できません。道の駅と直売所の組み合わせは直接徴収できるという意味では期待が持てますが、やはり多様化する価値の多くを網羅することはできず、多様性対応の一要素となってしまいます。

これに対応するためには、観光産業政策から観光価値創生政策へ移る必要があります。撮影〜シェアを目的とした観光には特徴があり、機会希少(自然現象や習慣による制限など)・観測難(知里・物理的・規制的要因など)・極小価値発見(マニア性)など観光客が「差分」を見出すことで盛り上がる心理が働きます。

従来ではパンフレットやポスターなどに掲載された風景や建築物、ランドマークなどを「確認(本当にあった!)」する観光だったため、その場所へ連れて行く「手段」と「時間拘束」が主体でしたが、それらはすべて反転し、観光客側に手段も時間も委ねられる状況になりました。この場合、観光客が知らないと思われる「地域知識」「文化」「習慣」に対して発信し、それらに関連する業種もお金を徴収できる役割を担うことが可能となる仕組みづくりをしていかなくてはいけない時代に入っています。

つまり地域にとって「観光」とは「観光地」が地域の利益を稼ぐものではなくなり、観光客が知らない情報、「地域知識・文化・習慣」を発信し、それに関連する業種が地域の利益を稼ぐことに変容したため受容者の幅が広くなり、影響が大きくなることから「上田の観光ブランド」のあり方を考えることは大変重要な時期に来ていると上田ブラ研は判断しています。

コラム記事:ことほむ 合同会社

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