人口構成の推移から読み解く観光ニーズの変化

人口構成変化2015-2045
 国立社会保障・人口問題研究所
日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)
男女・年齢(5歳)階級別の推計結果一覧より

世の中のトレンドを作っているのは、やはり人口が一番多い年代です。3年ほど前にじゃらんリサーチさんの資料で年齢構成別の推移グラフを作って説明を受けたものがわかりやすかったので、最新版の統計データを使って2018年確定値を元にしたグラフを作ってみました。横軸が年代で、縦軸が人数、各折れ線が「年」を表しています。暖色から寒色へ向かうほど未来を表現しています。

平均旅行回数グラフ(観光庁調べ)
観光庁旅行・観光消費動向調査
「2019年1~12月期」集計表(確報)より

このグラフは2019年1月〜12月までの調査に基づいた年代別平均旅行回数です。年齢構成グラフと合わせて考えると40〜50代の行動で観光トレンドが決まってくると考えても良いでしょう。20〜30代の旅行回数が多いようですが、年代別の人口比が40〜50代の半分以下であることを考えると倍以上平均旅行回数が増加しなければトレンドを作ることが難しいと考えるべきでしょう。

平均旅行単価(観光庁調べ)
観光庁旅行・観光消費動向調査
「2019年1~12月期」集計表(確報)より

平均旅行費用を比べると各年代でばらつきが小さいことからも、年代別の人口比によってマーケット・トレンドが形成されていることがよくわかります。

JTBさんが「新型コロナウイルス感染症流行下の日本人旅行者の動向(その5)~JTBF旅行意識調査結果より~」といったコロナ禍におけるレポートを出してくれています。この中に「旅行先で行いたい活動」というページがあります。

旅先で行いたい活動(JTB調べ)

「温泉・自然や景勝地の訪問」が上位を占めていますが、これは具体的にはどこのことを指しているのか? そこから具体的なイメージを推察してみましょう。

行ってみたい旅行先(JTB調べ)

温泉としては「大分・群馬・静岡」が入っています。大分では「別府八湯・由布院」が知名度ランクで上位。群馬は「草津・伊香保」、静岡は「熱海・修善寺」が上位を占めています。(第30回にっぽんの温泉100選(2016年度) – 観光経済新聞)自然や景勝地は「北海道・沖縄・静岡」とあり、静岡は富士山世界遺産登録で話題になった三保松原を指していると考えられます。ではここから別府八湯をサンプルとして抜き出し、別府の魅力は何なのかを探ってみたいと思います。

「近代的温泉観光地の形成と都市開発―大分県別府市を事例に―」(中山 穂孝(大阪市立大学・文学研究科)2015研究ノート)より、別府温泉の歴史を俯瞰してみると、明治期以降に熱海よりも先に都市開発がなされたとあります。背景には交通インフラが関係しており、明治4年に別府港の整備を開始し、明治6年に大阪・別府航路が開設されたことがきっかけとなって、関西からの入湯客が増加し始めたことが現在の別府温泉の知名度を形成する基礎となっているようです。おのころから旅館建築が進むと同時に、港湾整備のおかげで外国船籍の周遊船が寄稿することで海外での評価が上がり、昭和初期にかけて都市間交通となる鉄道の整備が進みます。

こうして交通インフラが整いながらも、別府が有名になった活動の一つに油屋熊八の宣伝活動と観光資源投資は外せません。地獄めぐり観光、ガイドの付きの定期観光バスの運行などのほか、地元民への別府愛を説いた活動の末、現代の別府駅前に銅像が立っているほどの尽力者であったことが伺えます。

こうした観光基礎がそのまま戦後の高度成長期をはさみ、国鉄ディスティネーションキャンペーンからJRへ受け継いだ現代でも「温泉といえば別府」という認知が2020年現在の40〜50代以上には刷り込まれていると考えると、アンケート結果である「大分=温泉」のイメージは理解できるのではないでしょうか?

それではいままで出てきたデータに基づけば、別府は安泰なのか? といえばそうでもなく、「「名前は知っているけど、今さらね……」だった別府温泉を復活させた“驚きのPR”とは?」(文春オンライン)の記事のように、一時期は観光客が減少しており、観光資源への再投資をしなければ増加が見込めなくなっていました。

この背景には観光トレンドを作っている年代が絡んでいることを予想せざる得ません。現にグラフを見直せば、5年前の2015年は40〜50代の山と並んで60〜70代の山が存在しました。いわゆる団塊世代です。

人口構成年代別2015-2025
国立社会保障・人口問題研究所
日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)
男女・年齢(5歳)階級別の推計結果一覧より

2020年現在この山は右に移動しつつあり、60代と70代とでは平均旅行回数にぐっと差があることもわかっているため、観光トレンドは40〜50代に移ってきたことの顕在化だと捉えても良いでしょう。では40〜50代、いわゆる団塊ジュニア世代は団塊世代と何が違うのでしょうか?

資料:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)
(2013年1月推計)」、「人口統計資料集(2014年版)」
(注) 生涯未婚率は、50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合であり、
2010年までは「人口統計資料集(2014年版)」、
2015年以降は「日本の世帯数の将来推計」より、
45~49歳の未婚率と50~54歳の未婚率の平均。
平成26年版厚生労働白書 ~健康・予防元年~生涯未婚率の推移より

50才時点で一度も結婚したことのない人の割合を示したグラフです。2013年時点のデータなので、推定値が多いですが2020年時点でも劇的に結婚率が上昇したといった変化はないので、傾向として大きく変わっていないでしょう。つまり「おひとりさま」が増加することを指し示しています。そうした背景を指し示すように観光経済新聞に〈「ひとりでしたいこと」国内旅行は第5位〉という記事が掲載されました。

観光経済新聞2019年10月19日記事

今まで「旅は複数人」という前提に基づいて組み立てられてきたものが多いため、ひとり旅に困るハードルや、ひとりではできないこと、したくないことも顕在化してきたと判断しても良いでしょう。

この「おひとりさま」化の背景には、SNSの普及とモバイル化も関連していると考えても良さそうです。

スマートフォンの普及
総務省情報通信白書29年版―数字で見たスマホの爆発的普及(5年間の量的拡大)より

スマートフォンの普及2012年頃からFacebookが伸び始め、2013年からLINEがスタート。40〜50代のSNS普及率と生涯独身率とも似たようなカーブを描いています。SNSの普及にによって観光のあり方が変わった記事とリンクします。

マーケット・トレンドを40〜50代が作っていることに加えて、20〜30代はSNSやスマートフォンは当たり前の存在となっていますので、2015年頃までマーケット・トレンドを引っ張ってきた60〜70代の年齢が上がり、旅行回数が減ったこととクロスしてこのように変化が生じていると捉えたほうが良いと考えています。

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